ここ最近、地域通貨を活用した地域の活性化が増えてきています。地域通貨を電子化(デジタル化)し活用している事例も多くあります。
本記事では地域通貨について地域の活性化に使えるかどうか、また各地で実際に取り組まれている事例を解説いたします。
結論から言うと、地域通貨には課題があるが、うまく活用できれば地域の活性化に貢献できそうです。
目次
地域通貨とは
地域の活性化を目的として限定したエリア内で流通、決済手段として利用される通貨です。日本では2000年代に一度流行していて、その際は地域独自で紙の紙幣を利用していました。その地域通貨が現在「紙」から「デジタル」になり、再び各地で普及を始めています。
地域通貨が地域を活性化する可能性
そんな地域通貨には、地域の活性化につながる可能性があります。インターネットの普及でさまざまなことが便利になり、人と人がつながることで成り立っていた事が、ダイレクトに人と物がつながるようになりました。
そのため今までとはコミュニケーションの方法が大きく変わっています。それに伴って、日本国内のあらゆるコミュニティのあり方もそれまでとは異なり、対面でコミュニケーションをとる必要がなくなりました。
これは地域社会にも言えることです。大小様々な地域がありますが、そのいずれにおいても自分のお店、施設などに人を呼ぶことが難しくなっています。その流れはコロナ禍でより鮮明になり、ダイレクトに人を集客することは今まで以上に難しくなっています。
ではどのようにしてこの問題を解決すべきか。その一つとして、地域通貨の利用が考えられます。地域通貨を利用して、地域内で消費することにメリットを感じてもらうことができれば、利用者を増やすことができるという考えです。
地域通貨のメリット
ではデジタル地域通貨にどんんなメリットがあるかというと、次の点が挙げられます。
①地域外から地域内への流入を促進する
まず地域通貨を利用するために地域外から来る方が増えるという点があります。地域振興に使われるいちばんの理由がこちらです。また初めて訪れた方が地域通貨を利用して街の魅力を感じたり、利便性を知ってくれたりするとリピートにもつながります。
②地域内での消費を活性化する
地域外からの流入に加えて、対象地域内にいる方の消費を活性化することも大切です。地元の店舗でポイントを使えたり、得られたりすると優先的に利用されると考えられます。地域内のコミュニケーションの増加にもつながります。
③キャッシュレスの促進につながる
まだまだキャッシュレスが普及しているとは言えないですが、キャッシュレスは消費者・販売側ともに手軽さ、利便性が現金とは段違いです。デジタル地域通貨は他の電子マネーと連携を図ることもでき、導入がキャッシュレスの促進につながります。
④購買データを取りやすい
販売側の視点では、デジタル化をすると購買データが分析しやすいメリットがあります。行動分析も加えることで、的確なキャンペーンを打つことも可能です。データを取るというと消費者からは敬遠されがちですが、最適なタイミングでポイント還元や割引が発生するなど、結果として消費者にもメリットが出てくると考えられます。
デジタル地域通貨の課題
地域の活性化のためにすぐにでも導入すればいいとも思えるデジタル地域通貨ですが、課題もたくさんあります。
①地域内の連携・協力が不可欠
地域内で使う通貨ですので、地域内の商店、施設などには皆協力していただく必要があります。使える場所が限られていると通貨本来の「流通」という価値が失われてしまいます。
②流通量が少ないと価値が出ない
上記と似ていますが、地域内では使えるが地域外では使えないとなると流通性が大きく損なわれます。ある程度の流通量を確保するために対象地域をどのくらいの範囲にするかという点は課題と言えます。
③コストの負担が難しい
紙通貨と比べると少ないですが、発行母体にとってコストは発生します。通貨を流通させるにあたってそのコストを賄い切れるかどうかも大きな課題です。
④電子マネーとの競合
電子マネーが普及してきていることで、デジタル地域通貨はそれらと競合することになります。大手のキャッシュレス決済(PayPayなど)は定期的にキャンペーンをおこないますし、加盟店もかなり多くなっています。これらと比較するとデジタル地域通貨は利便性で劣ることになります。
デジタル地域通貨の事例を研究
メリットと課題があるデジタル通貨ですが、成功例があることは事実です。では成功例ではどのように課題を乗り越えているのか。事例から検証をしてみます。
さるぼぼコイン
概要
岐阜県の飛騨高山エリアで使えるデジタル地域通貨。発行は「ひだしん」(飛騨信用組合)が行っている。1コイン=1円相当で利用が可能だが、最後に使用してから1年後にポイント失効となる。ひだしんなどの窓口や、専用チャージ機、セブン銀行ATMでチャージでき、チャージの際に1%分のポイントが付与される。加盟店は約1,500店(2021年2月時点)。
ポイント
さるぼぼコインの特徴は専用機に加えてセブン銀行でもチャージできるという点です。ポイントがつくということでチャージを促しています。また加盟店も多く、地域内で一定の流動性は保てているという印象です。またコインに利用期限を設けることで利用の促進もしています。UIもかわいく、観光できた方にも使いやすい印象です。
めぐりんマイル
概要
香川県内で使われているデジタル地域通貨。スマホタイプとカードタイプの選択ができる。1マイル=1円相当で買い物などに使用が可能。ポイントを貯めて使うのではなく、もらって使うがコンセプトになっている。さらにSDGs活動などによってもマイルが貯まる。フェリカを利用しており既存のインフラ(WAON、香川大学の学生証、IruCaカードなど)を活用できる。
ポイント
香川のめぐりんマイルは社会貢献活動などでマイルが手に入る仕組みで独自性を出しています。また、買い物で使用するだけでなく、ボランティア団体への寄付に使えたり、地域のスポーツ団体とのコラボに使えたりと使い方でも独自性を出しています。スマホだけでなくカードタイプも選ぶ事ができ、幅広く利用してもらえるようになっています。フリーペーパーの発行や県内の団体との協働など地域活性化を多角的に行う一環として利用されてい流のが特徴です。
negi(ネギー)
概要
埼玉県深谷市の地域通貨。2019年5月にプレミアム率10%を追加したプレミアム商品券を発行し実証実験をスタート。その後、健康マイレージ事業「ためるんピックふかや」として市民の生活習慣改善のきっかけや、2020年5月には新型コロナウイルスに伴う経済対策事業として、市内の加盟飲食店を利用するとポイント還元さるなどの活用がされている。1negi=1円相当で、深谷市内の加盟店舗で利用可能。加盟店は614店舗(2021年2月時点)
ポイント
negiは。オリジナル地域通貨として深谷市内の活性化に活用されています。プレミアム商品券として使われたり、コロナ対策として使われたりと、ミクロな経済対策のインフラとして活用されているのが特徴です。また、地域通貨の仕組みとして「chiica」という地域通過プラットフォームサービスを活用しているのも特徴的です。
まちのコイン
概要
面白法人カヤックの提供する電子地域通貨サービス。利用されるほど地域の方々が繋がっていくコイン。神奈川県などの地方自治体が活用をしている。誰がどこで利用したかがわかるSNSの仕組みも導入。お店のお手伝いやボランティア活動、SDGsに貢献することでコインがもらえる。
ポイント
「使えば使うほど、仲良くなるお金」ということで、コミュニティ形成(人と人との繋がり)の側面から地域を活性化させる考えが魅力です。コインの獲得にはゲーム要素がふんだんに取り入れられており、気軽に楽しみながら利用できる点もメリットです。またコインの使い方をユーザーがカスタマイズできるためプラットフォームとしての楽しさ。工夫のしがいもあります。
東京ユアコイン
概要
東京都がSDGsを切り口としたキャッシュレス推進事業。都内の東急沿線(生活エリア)と丸の内周辺(オフィスエリア)で2020年1月〜2月に実証実験として実施。予算規模は2.500万ポイント。マイバックの持参、時差出勤、プラごみ軽減に貢献した人などにポイントを付与する仕組みとなっている。結果として生活エリアは30.4万人、オフィスエリアは7,345人が参加した。認知拡大、更なる社会実装を目指していく事業となっている。
ポイント
SDGsとキャッシュレス事業促進のための実証実験という段階ですが、東京都が対象になっていること、東急エージェンシーとの連携により時差出勤まで追えることができます。また、他のポイント(Tポイント、nanacoポイントなど)に交換できることで、SDGs活動がユーザーの利益にもつながりやすいのが特徴です。対象者に対して参加者が少ない(生活エリア:12.2%、オフィスエリア:2.5%)。さらに、利用箇所を広げたり、メリットを増やしたりしていく必要があるなど今後に向けての課題も多い事業です。ただし、東京都からこういった活動を推進していくことは大きな意義があると思いますので、どんどん広がってほしいと感じます。
まとめ
地域通貨の特性と事例を解説しました。本記事の内容をまとめておきます。
地域通貨のメリット
- 地域外から地域内への流入を促進する
- 地域内での消費を活性化する
- キャッシュレスの促進につながる
- 購買データを取りやすい
というメリットがあり、地域の活性化に役立つことが考えられる。
ただし課題として、
地域通貨の課題
- 地域内の連携・協力が不可欠
- 流通量が少ないと価値が出ない
- コストの負担が難しい
- 電子マネーとの競合
という点もあるのでこれらをうまく解決していく必要がある。
また、事例でも紹介したように、エリア特性やSDGsの活用、他社連携などで独自性を出しているデジタル地域通貨も存在するので、これらを参考にしてもっと多くの地域で普及する仕組みとなれば社会も変わるのではないかと思います。
本日は以上です。ありがとうございました。